October 29, 2004

Economies of Resource Accumulation - 1 -

再びKarel CoolのIndustry & Competitive Analysisの授業から。

Economies of Scaleという言葉は馴染みがある人が多いと思う。生産量が多くなればなるほど1個あたりの平均コストが下がることで、街のカフェで食べるハンバーガーがマクドナルド並の値段に決してならない、なりえないのはマクドナルドほどEconomies of Scaleを達してないから。

Economies of Resource Accumulationとは企業が自社のresource(機械などの設備、アニメコンテンツなどの知的資産、ブランドイメージなどの無形資産)を積み上げれば積み上げるほど蓄積していくこと。
例として取り上げられたのはHaagen-Dazs。アイスクリームといえば(日本でいう)100円アイスくらいしかなく「子供の食べるもの」だった頃、大人向けのプレミア・アイスクリームというコンセプトを打ち出し他のアイスの3倍もの値段で文字通りとろけそうな味わいのアイスを発売した。今でこそよく広告を見かけるものの、新参だったHaagen-Dazsは大手食品メーカーのように巨額をかけてTV CMを打つのではなく"whisper campaign"を開始。俳優、スポーツ選手などオピニオン・ピープル間での口コミが評判を呼び雪だるま式に評判が広がっていった。

ここで見られるのがEconomies of Resource Accumulation。例えば、平均して1人が自分の家族や友人3人に対して最近食べた「高いけれど天国にも上る気持ちになれるほどおいしかったアイスクリーム」の話をするとする。その3人が食べてみてまた3人に話せば9人に、9人がまたそれぞれ3人に話せば27人に広がる。つまり指数関数的に増えていくので、巷での噂にライバルが気づき、高級アイスの市場性を認識して製品開発をし市場投入した時点ではすでに先発であるHaagen-Dazsには相当のresource(=満足している顧客とブランド名)が蓄積されていたことになる。

日本でもこの戦略は大成功し、今では1個250円以上の高級アイス市場の80%を占めている。国内菓子メーカー大手である明治乳業『彩』がいつまでも後塵を拝しているのはこのせいでしょうねえ。

長くなってきたので、明日この"Economies of Resource Accumulation"を生み出す環境要因を紹介することにします。


posted at 10:03 AM : |


October 28, 2004

Knowledge Management

MBAとは、普段仕事をしている上で何となくそういうもんだと思ってやっていること、何となくうまくいかないと感じているのに自分では理由がわからないこと、を理論的に言葉で説明する学問だというのが私の基本的な解釈(ということは行ってわかった)。そのため、「そんな当たり前のことわざわざ大げさな名前(って英語なだけだけど)つけなくても・・・」と思うことはけっこうあった。

"Knowledge Management"はそのひとつ。訳すと「知識管理」。要は個人が持つ知識や情報を組織全体で共有し有効に活用することで業績を上げましょう、というもの。そもそも(情報やデータだけではない)個人が持つ仕事のノウハウや経験則は徒弟制度や今風に言うと(でもないか)OJTで自分から積極的に親方、上司、先輩、その他周りの人から吸収するのが当たり前でわざわざこの期に及んで教えるほどのことでもない、と初めてこの言葉を聞いた時は思った。でも、人員の定着率が低いアメリカの企業ではせっかく「個人」が蓄えた知識が「組織」の中に残らない、という深刻な悩みを抱えていること、かつ企業活動のグローバル化が進み企業間競争が激化するにつれて低コストで労働集約的なアプローチでは生き残れず、「知識」や「ノウハウ」といった見えない資産がより重要な差別化要因となってきたこと、などの認識から生まれた言葉なんでしょう。

最近は日本でもこの手の本がたくさん出ている(やっぱり翻訳物が多いですが・・・)。
ワーキング・ナレッジ -「知」を活かす経営
コミュニティ・オブ・プラクティス - ナレッジ社会の新たな知識形態の実践
知識経営のすすめ - ナレッジとその時代

一般に"Knowledge Management"というと企業内での共有文書管理ソフトなどITの側面からのみ語られることが多いけれど、本質的にはその企業が個人がお互い知識をシェアしたくなるような環境・風土を築いているかどうかが大きいと思う(10月7日のBlogのXeroxの例参照)。例えソフトを導入したとしても活用することによってメリットがあると感じない限り(例え日報など義務づけても)誰も効果的に利用しようとしないもの。何となく皆が自分の業績評価ばかりを考えていて風通しが悪い組織、末端の社員でも気軽にトップマネジメントに提言ができる雰囲気の組織。結局は信頼関係なんじゃないか、と情報の届かないオーストラリアの地で思ってます。


posted at 9:41 AM : |


October 26, 2004

FMCG

Fast Moving Consumer Goodsの省略形で食品、日用品、化粧品など製品の市場での入れ替わりが激しいConsumer Goodsのことをいう。FMCG業界で常にベストセラーの座を維持するのは容易ではなく、例えばお菓子を例にとってもコンビニ店頭で季節ごとどころか週ごとに新しい商品が出ている状態。

私が認めるお菓子のベストセラーは(別に認めても何も起きないけど)、
カルビーポテトチップスかっぱえびせん
明治アーモンドチョコ
森永チョコボールハイチュー
グリコポッキープリッツ
ロッテのガム
あたりでしょうか?

なぜこんなことを言い出すかというと、FMCG業界は数ある消費財の中でもとりわけ消費者の嗜好・トレンドを熟知し適切な時期にツボをつく広告を大量に打つ必要があるため長年国内メーカーが強いから。上記の(私が勝手に作った)ベストセラーリストを見ても国内メーカーばかり。このリスト入りを虎視眈々と狙っているのは唯一P&GPringlesくらいのもんでしょうか?(ここは別格)。

ここ2週間くらい出張でオーストラリアに来ている。文化的にはイギリスの影響が強いこの国でもお菓子では国内メーカーがんばってます、Arnott'sというメーカーのTim Tamというチョコレートビスケット。いつもスーパーのレジの付近に山積みになっている。おいしいけれど甘くて甘くてきっと半端じゃないカロリーのこれをオージーは実によく食べるらしく「オーストラリア人は1年間に1人2パック買っている」計算になるほど売れているらしい。日本人が年間に平均して2パックグリコのポッキーを買ってるとは思えないので、すごい。

Tim Tamを紹介したいがだけのために強引に持ってきたキーワードですが、私がぜひ日本でもっとがんがん売っているところが増えて欲しいのがCadburyのチョコレート(Fruit & Nutsが大のお気に入り)。Pringlesに続くことを願ってます。


posted at 10:05 AM : |


October 25, 2004

NPV

「数字に強くなりたい」と思いつつ何となく苦手意識を持っていた私がINSEADで一番新しいことを学んだのはFinanceの授業だった(もともとの知識がないので)。毎日課せられる膨大な量のAssignment、使い慣れない金融電卓と格闘しながら、でも正か誤の答えが出るのが久しぶりの受験勉強風で楽しかった気がする。

一番普段の生活でも使えそうな概念がNPV(=Net Present Value)。新規に投資を行うか否かの判断を行う際に使う金融では非常に基本的なもので投資を行うことによって得られる将来のキャッシュフローを現時点での価値(=NPV)に置き換えて評価する時に使う(このあたりについては経済産業省のWebsiteで『キャッシュフロー経営』というとても分かりやすい資料をなぜか発見したので興味のある方はどうぞ)。

当時、会社を辞めて私費で高額のINSEAD授業料を払い(実に€43,000!)卒業後の仕事も不透明な私にとって初めに思い浮かんだのは当然「MBA留学をするという投資に対する見返り」。5年で初期投資額(授業料に加え受験準備、1年間無収入であることによるopportunity cost(8月15日Blog参照)なども含む)を回収するためには毎年どのくらいの額のIncremental Cash Flow(MBA留学という選択肢を取らなかった場合と比較した増分キャッシュフロー)、つまりどれくらい卒業後の年収が上がらなければ元が取れないか、といろいろシミュレーションしてみた。

実際には当然金銭的価値だけでは計れないもの(受験勉強に時間を費やすことによって失う自分の自由な時間だったり留学中に得られる友達であったり自分に対する自信だったり留学中に友達の結婚式へ行けないことはの不義理(?)だったり)を考慮に入れた上での判断となるのでMonetary Valueだけで投資の判断をするのは早計だと思うけれど、重要な指針にはなる。

自分の成長(変化)によって昔読んだ本や見て感動した映画に感動できなくなったり逆に全然意味がわからなかったのに啓示を受けたように(?)わかったりすることはあるけれど、私にとっては2,3年前のベストセラー『金持ち父さん貧乏父さん">』。帰ってきてから読んだらすごーく言ってることがわかって納得できた。書いてあることに全て賛同する必要はないけれど、これからの自分の働き方に疑問を感じていたらお勧めです。


posted at 1:09 PM : |


October 23, 2004

Volume Leadership

最後は"Volume Leadership"。顧客一人(もしくは一社)だけでは不可能な方法でビジネスのボリュームを創り出すこと。B to Bでよく使われる。

Hanakoでも特集されるほど最近流行っている駅構内への店舗出店。おそらく決して安くはない地代のはずだが、それでも1日の鉄道利用者数が3,600万人といわれる首都圏の駅の集客力(というか通客力)は他の場所では実現できないレベルなのでしょう。

これも最近至るところで見るフリーマガジンR25。毎週木曜発行なのだがこれがめちゃくちゃ人気らしく木曜中にはラックから消えてなくなっている。無料なのでもちろん広告収入が頼りなのだが、広告主からしてみると都心のサラリーマンというターゲット層に速く幅広くリーチできるメディアということで他の広告媒体では届かないところに届くことが魅力なのだろう。

"Volume Leadership"を長期に渡って実現するためには2つ条件がある。
まず、競合より低いコストで提供できなければならない、もしくは提供するボリュームが大きくなくてはならない。クレジットカード会社であるMaster CardVISAが他社より高い料率をmerchantにチャージできるのはその顧客数の多さからである。


posted at 4:22 PM : |


October 22, 2004

Price Leadership

シリーズ3回目、"Price Leadership"。"Price Leadership"はコストを下げるわけでもなくトータルの"Value Chain"を変えるわけでもなく、何らかの理由で顧客にプレミア価格を支払うことを納得させることを言う。

どのような時にこれが当てはまるかというと・・・
Exlusive products・・・いわゆるブランド品はこれに当てはまる。また「100個限定生産」など限定品(いわゆるプレミアグッズ)も。インターネットでパンを1斤3,000円という恐ろしい値段で売っている超高級パン屋Recetteは売り出しても即完売が続いているらしい。天然酵母をはじめとしたこだわり食材を使い「究極のパン」としてこの値段で納得して買っている人がたくさんいるということでしょう(詳しくは『ネットのパン屋で成功しました』という本でどうぞ)。

Impulse products・・・その場の衝動で他の選択肢を考慮することなく買う類の商品。暑い日のアイスクリーム、1分間の電話注文限定のTVショッピング、映画館のポップコーンなど。
また類似品が存在しないため価格の比較をしようがない商品、カスタマイズした生命保険、名前入り指輪などもこれに当たる。

New Needs・・・新しい顧客ニーズを満足させる商品。全く新しいニーズを満足させる商品が出てきた時顧客は高いお金を払っても仕方ないと考える。1960年代のソニーWalkmanなど。

Complementary products・・・本体は価格競争が厳しいため利益が薄いが付属品で高付加価値を取っている例はよくある。有名なのがHewlett Packardのプリンターとカートリッジ。今はどうか知らないがかつてWorldwideで利益の半分近くをプリンタ部門が上げており稼ぎ頭はカートリッジをはじめとする付属品。一眼レフカメラとレンズも同じ関係にある。

顧客自身がfull costを支払わない場合・・・飛行機のビジネスクラスとエコノミークラスの差があれほどまでにあるのはビジネスクラスの客はほぼ100%自分で支払っていないためである(会社が払うかupgradeのどちらか)

この顧客価値を創造する戦略シリーズの中で"Price Leadership"が最も多くの人がイメージし、また多くの教科書に書かれているマーケティング・ブランディングだが、Karel Coolはそこではあまり触れられていない2つの切り口について触れている。それが、顧客の"bias"(偏見)と"framing"。

日本でも大ブームの「ご当地物」がまさにこれに当たる。典型的なのがいわゆるグルメ・コーヒー。いわずとしれたStarbucks Coffeeがシアトルの企業だったために、なぜか「シアトル」=「コーヒーがおいしい」というイメージが定着しTully's CoffeeSeattle's Best Coffee・・・とあっという間にシアトルは世界のグルメコーヒーの首都となってしまった。

また「専門家が絶賛!」というのにも弱い。例えばネットで売れているらしいセミパーマネントアイライナー、「メイクプロも絶賛!」らしいが一体何人が絶賛しているのか・・・

"framing"も重要なポイント。部屋探しに不動産屋に行くと予算よりもちょっと高めの部屋を見せておき、後で予算内の部屋を見せて(こっちが本命)割安感を演出するのは常套手段。また、Yahoo! BBがADSLを始めた時に顧客獲得に大成功した「初回○カ月無料」サービス。もちろんBBの場合月額料金も安かったのだが、初めの月から料金を課すと消費者は「初期費用」と認識するが、無料お試し期間があるだけで何か得をしたような気分になり気軽に契約する。

ともあれ、"Price Leadership"はすべてのブランド・マーケッターが憧れる戦略。


posted at 10:06 PM : |


October 21, 2004

Chain Leadership

ある製品が原材料から完成品になって消費者の手に届けられるまでには通常一社だけでなく多数の企業が介在する。
顧客の価値を生み出すプロセスを図式化したものを"Value Chain"と呼んだ(8月23日のBlog参照)。"Chain Leadership"とは、このchainを変えたりコーディネートすることによってトータルのコストを下げることを言う。

INSEADでもケースで取り上げたeasyJet(11月25日のBlog参照)は典型的な例。機種の統一、機内食の排除などと共に航空券販売にインターネットを用いることにより劇的なコスト削減を実現した(既存の航空会社は今まで築き上げてきた代理店網や自社販売網があるため安易にすぐに直接販売は難しい)。またトヨタの代名詞とも言えるJIT(Just In Time)もsupplierとbuyerの関係をコーディネートさせることによって在庫を抱えるコストなどを抑えたもの。

また客の手間を省くことによって客が高いお金を払ってもいい、と思うケースもある。私はコンタクトレンズがないと生きていけない。今でも毎晩ソフトレンズを外して洗浄しているが、現在ワンデーアキュビューに代表される使い捨てコンタクトが年々市場シェアを拡大している。私の周りでも使い捨てを使っている人の方が多いくらい。長期的に計算するともちろん使い捨てタイプの方がコストは高いのだが(普通のタイプをなくさずに流さずに何年つけていられているかによるが)多くの人は洗浄の手間よりもお金を払うことを選んでいる。

また製品を「パッケージ化」することによってもコストを下げられる。「パッケージツアー」は最たる例で航空券、ホテル、空港送迎、市内観光など消費者はflexibilityがない一方で一括調達によるコストダウンが実現されるため個人手配よりも安い値段で旅ができる。

このような"Chain Leadership"を実現するためには条件がある。
まず、supplierとbuyerの間に「トータルコストは安い」ことを納得させる必要がある。早い話が"Chain Leadership"が発揮された商品のトータルコストのbreakdownを消費者に見せれば(パッケージツアーのコストの中で航空券はいくらか、ホテルはいくらか、、、etc.)いいのだけれどそんなことをする企業はどこにもいない。

そして個々に購入した場合と相当の価格差がなければならない。また、"Chain Leadership"が簡単に競合にとってマネできるものであれば価格競争を招くだけで企業側には利益が残らない。日本の旅行会社のパッケージツアーはほとんど薄利多売式のような気がする。

今日INSEADのインド人同級生から金太郎飴的などこを切っても同じパックツアーではなく、カスタマイズして本当のインドの姿を見せるhigh-endのインドツアーを扱う会社を設立した、というメールがきた。Enchanting Indiaという名前で名前、Websiteからして魅力的。こうやって同級生が起業をしていく姿を見るのは本当に嬉しいし頼もしい。元々のコストが安いだけに本当にマハラジャのような生活が楽しめそうなEnchanted India、ぜひ暇もお金もない私の代わりに誰か行って感想を聞かせてください。


posted at 9:21 AM : |


October 19, 2004

Cost Leadership

2つ前の続きで"Customer Value"を創造するための1つめの戦略、"Cost Leadership"について。

「低価格」を売り物にしている企業は多い。ところが、一社が安易に低価格戦略を取ると際限のない価格競争に突入するケースを数多く見てきた。
価格競争に陥りやすい状況とは、
-代替品が多い e.g.TGV(フランスの新幹線)がParis-Lyon間に開通した途端同路線の航空代金が40%下がった
-他社との差別化が難しいCommodity e.g.小麦、鉄
-簡単に試せること、そして失敗した場合のコストが低いこと e.g.缶コーヒーの新製品が出たら120円で簡単に試せるし、しかもまずくても数分間悲しい思いをするだけ

では、価格競争に陥ることなく"Cost Leadership"を発揮するにはどうすればよいのだろうか? Karel Coolによると切り口がScale, Time, Relationshipsの3つある。

Scale
製品のコストは数を多く作れば作るほど下げられる。よい例が(米国で狂牛病が発生する前の)吉野家。吉野家はメニューは牛丼だけだけ、という単品戦略を取ることで材料の大量一括調達を実現し、多彩なメニュー展開をする松屋など競合の追従を許さない低価格を実現した。

Time
スケールメリットを追求することがコスト削減の方法ではない。企業は"learning curve"(=学習曲線)を急にしたり(=他社より速く学習する)企業活動プロセスを改善することにより「同じことを短い時間で行う」という戦略を取ることができる。

Relationship
自分のコストを下げるためにサプライヤーに対し値下げの圧力をかけるのではなく、サプライヤーと協力してサプライヤーのコスト構造そのものまで踏み込む企業もある。"Everyday Low Price"で知られるWalmartはサプライヤーを巻き込んだ物流インフラの革新で有名。

過去、マクドナルドユニクロと数多くの企業が"Cost Leadership"を実践し顧客の心をつかんできた。でも、これらの企業の今を見ればわかるように、"Cost Leadership"を長期に渡り維持し続けるのは本当に難しい。


posted at 12:16 PM : |


October 18, 2004

First-Mover Advantage

前回、Customer Valueを創造するための4つのstrategyについて考察する、と言っておきながら、その元ネタとなる資料を紛失してしまったのでしばらく関係あるテーマでいきます。

「先行者優位」と訳される"First-Mover Advantage"。他社より早くある製品/サービスを市場投入し成功すると当然それを見た他者が参入を急ぐが、その間に2番手がすでに追いつけないほどの市場を獲得するケースが特にインターネットビジネスでは多いように思う。

これは8月18日のBlogに取り上げたNetwork Externalityに多分に関係している。Classicなケースでは、インターネット時代の寵児としてCEO Meg WhitmanがFORTUNE"The Most Powerful Women in Business 2004"にも選ばれたeBayが日本ではYahoo! Auctionに完敗し撤退したケース。Meg Whitmanは私がINSEADにいた時にスピーチに来ていて(->その時の様子はコチラ)率直に「Yahoo!にfirst-mover advantageを取られた」と認めていた。これはネットの世界で有名になっている人、ショップ、商品・・・でよく見られるケースじゃないかと思う。

先週、会社の先輩の家のホームパーティーに招かれ行った。奥様は"桜 美香"さんというペンネームでAll Aboutスタイリッシュレシピのサイトのガイドをしている方。自分でHeart KitchenというWebsiteも運営されていて、そこから来る仕事依頼で超多忙。お料理はアイデア満載でもちろん本当に素晴らしかったのだけれど、私が何よりも感動したのが「これは早くからネットで情報発信をしたからこそ拡大できたんだろうなあ」ということ。

元々お花の先生だった美香さん、旦那さん(私の先輩)の転勤でひとりも知り合いのいない京都へ行くことになり暇つぶしで料理を始めたのがそもそものきっかけ(と謙遜していた)。インターネットといえばまだオタクの匂いがぷんぷんしていた1997年に料理レシピサイトを立ち上げ。その後は評判が評判を呼ぶパターンで発展して今日に至るそうな。もちろん生まれもってのセンスと他人からは伺い知れない努力の賜物だとは思うけれど、全く同じことを今日始めても果たして同じ展開になるかどうか・・・と思うのですが、いかがでしょうか?


posted at 9:59 AM : |


October 15, 2004

Customer Value

INSEADでは最後に学生が"Best Professor"を投票した。私が選択科目で投票したのが"Industry & Competitive Analysis"のクラスのKarel Cool。派手ではないけれど、業界・競合分析での突っ込んだ分析は圧巻。(紹介しておきながらなんだけど)Five Forcesなんか目じゃない。授業中は内容が深すぎるので難しくて頭を抱える日が続いた。このWeblogではその一端を紹介していきたいと思う。

最近"「価値」の経営への転換"などとよく言われるが、私たちが毎日財やサービスの購買活動を行う決断をする時には必ず決断を促す理由がある。
朝、新聞を駅のKIOSKで買う --> 通勤途中にあり便利だから
夏の暑い日に通りかかったHaagen-Dazsでアイスクリームを買う --> 店内から出てきた人のアイスがあまりにおいしそうだったから
給料日前なのでいつもは1,000円の定食ランチだけどコンビニでおにぎりを買うことにした --> とにかく安く済ませたい
どんなビジネスでも顧客に選んでもらう="Customer Value(顧客価値)"を提供することができなければ市場から淘汰される。

Karel Coolは企業がCustomer Valueを創造するために取りうる選択が4つある、と説く。
1. Cost Leadership
2. Chain Leadership
3. Price Leadership
4. Volume Leadership

前置きが長くなってしまったので、明日からこの4つの戦略それぞれを取り上げることにします。


posted at 9:58 AM : |


October 14, 2004

Bundling

ソフトウェア販売などでよく使われる用語、バンドル(bundling)。企業の価格決定を行う際の基本的な理念のひとつである。

例えば、ワープロソフトにAさんは1,000円、Bさんは500円、表計算ソフトにAさんは400円、Bさんは900円のWillingness to Pay(支払い意思)を持っているとする。

企業は自社利益を最大化したい。ところが、ワープロソフトに500円を超える値をつけるとAさんしか買わない(1,000円より高いと両者とも買わない)、表計算ソフトに400円を超える値をつけるとBさんしか買わない(900円より高いと両者とも買わない)。ワープロソフトを500円、表計算ソフトを400円と設定すると両者とも両ソフトを購入するが、企業の収入は900円となってしまう。

そこで、ワープロソフトと表計算ソフトをバンドルして1,400円で販売するとAさん、Bさんともに購入し、企業は収入(並びに利益)を最大化することができる。

なお、これを独占的な立場にある企業がやると独占禁止法に引っかかる。

私はフランスから帰ってきて引っ越した時、電話を引こうとしてNTTにした。すると、「配線開通の工事が必要になるが、土日は混んでいるためいつになるかわからない。ただし、NTT東日本のADSLサービスフレッツに入るのであれば優先的に土日工事ができる」という。そしてキャンペーン料金はマイラインプラスに入ることが条件。おまけにぷららにまで勧誘されて、総バンドル状態。

「電話線の開通」を握りながらのこの態度に腹が立ってすべて断ったけれど、「フレッツに申し込めば土日工事してあげる」はほとんど独禁法スレスレじゃないんでしょうか?


posted at 5:33 PM : |


October 13, 2004

Five Forces

最近楽天で食べ物のお取り寄せにはまっている(とは言っても一人暮らしの身では量が多すぎて注文できるものも限られるけれど)。この前オーダーしたのが無農薬野菜ミレー
の『こだわり野菜おためしセット』。

千葉の無農薬生産農家の野菜etc.を楽天で販売していて、この野菜セットは楽天のランキングでもTopランキングされている。何が入っているかは配送日によって異なるため(もちろん季節の野菜が中心)開けてからのお楽しみ。配達された野菜たちはどれも色が鮮やかでいきいきしていて生産者の名前が入ったメモが添えられていた。

最近ではスーパーで「生産者の顔が見える」ことを売り物に特に有機野菜のコーナーとかで生産者の名前と顔写真が紹介されていたりするけれどそれでも大手スーパーに卸したりできる農家なんてまだまだ一握りだろう。それがミレーのようなシステムであれば、ネットショップの知識が全くなくても取りまとめしているところに持っていくだけでOK。自分の畑で取れた野菜がすぐに(ほぼ)直に消費者の家庭に届く時代、ファミリービジネスにとってもつくづく流通業への参入障壁が低くなったなあ、と思うと同時にFrameworkの中では大御所とも言えるPorterのFive Forcesを思い出した。

Michael Porterというアメリカ人教授が作り出したframeworkで5つの角度から「業界」分析を行うもの。
5つの角度とは"Industry Rivalry"(業界内の競合)、"Threats of New Entrants"(新規参入の脅威)、"Threats of Substitutes"(代替品の脅威)、 "Suppliers' Power"(供給者の交渉力)、"Buyers' Power"(買い手の交渉力)のこと。

既存の町の八百屋さんに取って今の生鮮食品流通業界とはどういう状況なのだろうか? "Five Forces"を使ってみる。

Industry Rivalry・・・町の八百屋さんに取っては大手スーパーがやはり最大の競合であろう。生鮮食品のようなある程度Commodityは商品だけで差別化を行うことが難しく消費者が価格や店舗立地、営業時間といった他の要素で選ぶ傾向が強くなる。
Threats of New Entrants・・・多くの消費者がインターネット上で買い物をすることに抵抗感がなくなった今、上記ミレーのようなオンラインショップが業界に新規参入している。彼らは特に無農薬・有機農産品の分野において「生産地から直接消費者へ」を掲げて叙々にシェアを拡大している(と思われる)。
Threats of Substitutes・・・外食・中食産業が拡大している。女性の社会進出が進み料理をする時間がなくなったことも一要因として、より多くの人が食事を家で作るのではなく外で済ませたりお惣菜を買ったりするようになったため、八百屋に足を運ばなくなっている。
Suppliers' Power・・・農家の交渉力はどうなのだろうか? 外国産の安い農産品が入ってくるになるようにつれ少なくても日本の農家は苦労しているような気がするが。。。
Buyers' Power・・・上記のように消費者には選択肢が増えたため、買い手の交渉力は一昔前に比べると大きくなっている。

このようにFive Forcesで見てみると、町の八百屋さんにとって現代の生鮮食品流通業界は非常に競争の激しい厳しい業界だということができる。


posted at 11:36 PM : |


October 12, 2004

Price Discrimination

お知らせです!
Haloscanというところのツールを使って、CommentとTrackbackの機能をつけました(やっと、、、っていう感じですが)。ドシドシお待ちしております。

さて、今日のお題の"Price Discrimination"とは「人それぞれ"この商品にはこれぐらい払ってもいい"という金額が異なるので異なる顧客層に対し異なる値付けをする(=差別をする)」こと。美容院の学割や鉄道のシニア割引などがすぐ思いつくけど、これは何も「お金のない学生さんや年金暮らしのシニア層には多少利益を削ってでも割安な価格で提供してあげましょう」などというボランティア精神からくるのではなく、できだけ多くの人からそれぞれの購買意欲ギリギリのところで価格設定をするという経済原則に沿っただけのこと(と言うと言いすぎ?)。

"Price Discrimination"には上記のように年齢で差別するもの、航空券やホテルのように季節、時間で差別するものetc.いろいろあるが、理想的には一人一人の購買意欲価格ギリギリで販売する時企業は利益を最大化できる(これをそのまんま、"Perfect Price Discrimination"と呼ぶ)。

本を好きな人には2種類いて、「本を買って所有するのが好きな人(匂いが好きとか自分の部屋の棚に並んでるのが好きとか)」と「単に本を読みたい人」。私は完全に後者でしかも1度読んだ本のほとんどは2度と読まないので新書の単行本を買うことはまずない。そんな私の力強い味方が首都圏に増殖する中古書籍・CDその他のリサイクルショップBOOK-OFF

書籍・雑誌の新刊はご存じ再販制で定価販売が原則。でも同じ本でも人によって「払ってもいい」額が異なるはず(これを一部解消しているのが、出版時期を分けている単行本と文庫本だがこれでも不十分)。中古本で再販制の規制を受けないBOOK-OFFでは徹底した"Price Discrimination"が敷かれている。

まず、出版されたばかりの本が新刊と変わらない値段で売られているのは当然、まだ書店では新刊を定価で買う人がいるのだから。

圧巻は文庫本に普通のコーナーと105円コーナーがあり、同じ作家でも両方のコーナーに置かれているもの(比較的「旬」の作品は300円の値がつけられ、古い作品は105円コーナーに、また古い作品でもロングセラーのものはずっと変わらず350円、、、など)、105円コーナーには一段すべて占めるほど置いてあるのに普通のコーナーにはほとんどない「週刊誌系(=読み捨て系)」の作家、、、などなど見てるだけで楽しいもの。

例えば私の好きな村上 春樹は短編集以外の作品はいつ見ても文庫本コーナーにほとんど残ってなくて(そもそも売る人が余りいないのかも)、単行本コーナーに『ノルウェイの森〈上〉』くらい古い作品でも800円くらいで売られている。

それに対して林 真理子唯川 恵といったエッセイ系、読み捨て系(失礼)の作家は新しいものでもずらっと105円コーナーに並んでいる(状態のいいものは普通のコーナーにももちろんちゃんとあるけど)。これはもちろんBOOK-OFFの定員が「村上春樹の読者はこのくらいの価格設定にしないと」と日々悩んでいるわけではなくデータベース化されていて、単にその結果が店頭の書籍陳列に表れているだけ、というシビアなもの。

これを日本一の書籍データベースを持っているであろうAmazonがやったらすごいことになるんだろうなー、と思いつつ、でも新書のネット販売という自らのビジネスとcannivalizationを起こすのでやらないんでしょうね。一応出品ユーザーに価格設定をさせる中古本販売はやっているけど、あれは売れてるんだろうか?


posted at 9:18 AM : |


October 11, 2004

Brand Dilution

3連休は実家に帰った。今回の目的は「大好きな京都が私の知っている京都のままであるかどうかを確かめる」こと。

就職のため東京に出てはや7年。その間東京のメディアでは京都がまるでハワイやバリであるかのような扱われ方をしているのに驚いた。特に秋ともなると雑誌はこぞって京都特集。それも『京都人だけが食べている』とか『秘密の京都 京都人だけの散歩術』とか、ああ、そこまで書いたら静かなあの場所まで観光客で溢れてしまうぅぅ、と思うほど詳しい。

昨今の和ブームにものってあれよあれよという間に全国的な有名店になってしまった茶寮 都路里。私が初めてその抹茶パフェの味を知った10年以上前も地元民で人気だったけれど平日であればお茶の時間でも並ばずに入れた。ところが、観光客で行列ができるようになって2Fだけの喫茶室に3Fができ、京都駅前のJR京都伊勢丹に支店ができた。この頃から尋常ではない長蛇の列ができるようになり、2年前にオープンしたカレッタ汐留にも支店がOPENしたときは「ああ、もう昔の都路里じゃないんだ」と思った。

ブランドのDilutionとは希釈化と訳され、主にブランドが拡張することによってそのブランドがそれまで築き上げてきた消費者との結びつきが薄まることを言う。さすがに地元民は観光客に混じって1時間も並んでパフェを食べようと思わないので、都路里と地元民との関係は拡張によって希薄になったように思う。


特選都路里パフェ
今回は味まで変わってしまったのか確かめたくて(昼前から列ができるので)仕方なく開店直後に行ってみた。注文はもちろん特選都路里パフェ(写真参照。朝ご飯代わりにパフェを食べたのは生まれて初めて)。周りはみな観光客。口の中にパーッと広がる抹茶の風味は変わってなかった。メニューも抹茶プリンetc.が追加された以外はあまり変わっていない。少し安心。

京都ブランドのDilutionといえばよーじやもすごい。創業1904年の老舗の「舞妓さんが使うあぶらとり紙」がなぜかヒットして京都市内に8店、関空やLAにも支店があり、何とカフェまで出してしまった。もちろんオンラインショップで石鹸、手鏡、何でも買える。

対してどんなに人気が出ても頑なに態度を変えないのがキャンバス地のバッグで有名な一澤帆布。相変わらず本店と通信販売で注文販売というスタイルは変わっておらず、注文してから手に入るまでに3-5ヶ月かかるらしい。

有名になり商売を拡大すると共にある程度避けられないかのように思えるブランドのDilution。でも、銀座の人気イタリアン『ラ ベットラ』の落合シェフがSB食品
と出した予約でいっぱいの店の・・・シリーズのようにレトルト食品や冷凍食品にはなって欲しくない、というのがファン心。


posted at 1:00 AM : |


October 10, 2004

Congruence Approach - 7. People

Congruence Approachの要素も今日が最終回。

"People"とは企業が業績不振に陥った時に経営陣の首をすげ替えたり競合企業からトップセールスマンを引き抜いたり、人で解決しようとするパターン。採用を中途採用に頼っている中小企業や外資系企業に多く、言い換えると"HR"のように今いる従業員が自発的に変わることを待っている余裕のない、「人を育てる」という意識の希薄な企業に多く見られるパターンかもしれない。

最近話題となったのはNTT DoCoMoの副社長まで勤めた津田氏がボーダフォンの社長になったケース。ボーダフォン(前身J-Phone)は日本では大したことないけれど、世界的には他の追従を許さないメガキャリア。世界一先進的で、かつNTT DoCoMoという巨大キャリアのいる日本市場に真剣だということが伝わるような人選。アメリカでは競合企業のTopに転じるケースは珍しくもないかもしれないけれど、日本ではまだまだ珍しいので津田氏のお手並み拝借といきたいものです。


posted at 11:44 PM : |


October 09, 2004

Congruence Approach - 6. Process

Innovativeな製品/サービスを生み出すため、もしくは悪しき慣習を絶つために社内のプロセスを変えようというのがこの意味するところ。

よく企業紹介のパンフレットなんかである「ISO9001の認証を取得致しました」という「ISO9001」はまさに日常業務のプロセス、管理プロセスを組織内で標準化することにより品質管理を行うためのもの。

以前、大企業の中のベンチャー的な成長著しい部署で働いていた。私が部署に入った当時は共通ファイルというものがなく(注文書、仕様書などを含む)文書、ファイル、その他一切合切が個人に属していて「人が異動すれば以前のことがすっかりわからなくなる」という状況だった。

ところが、ISO9001を取得することになり、「注文請書は課長以上のサインが必要、業務委託などの契約書は部長以上のサインが必要」など業務プロセスが事細かに決められ(当たり前のようだけれど、それまではなかった)、一方で今まで自由にクリエイティブにやっていた人たちが管理されることを嫌うようになって部署を去る人も現れ、、、組織が大きくなるにつれ必要不可欠なプロセス管理は一方でinnovativeな人たちの創造意欲も奪うもんだなー、と両者を成立させることの難しさを目の当たりにしたもんです。


posted at 9:22 PM : |


October 08, 2004

Congruence Approach - 5. Structure

第五回目の今日はけっこうそのまま。組織を変えることによって企業を活性化しようとすること。どこの会社でもけっこう頻繁に行われてますねー 

私が留学前勤めていた会社では1年に3回も4回も組織が変わるのが当たり前で新しい名刺ばっかり作っていた気がする。

組織といえば営業部、技術開発部、財務・経理部といった形でfunctionで分けられた組織はお馴染み。大きい企業になるとすべての製品をひとつの営業部、技術開発部で手がけることが不可能になってくるので製品/サービスごとに分けた事業部制(さらにはカンパニー制)を取りそれぞれ営業、技術開発、財務・経理などバックオフィス部門を設けることが現実的になってくる。

そして最近は「顧客中心主義」ということで大企業、中小企業、個人向けと対象顧客によって組織を分けるところも増えている。

Microsoftでは商品カテゴリー別(Windows, Office, Server, Business Solutions, Games, MSN, etc.)、顧客別にConsumers(一般消費者), SME (Small & Medium-sized Enterprise、いわゆる中小企業), Large Enterprise(大企業)、とMatrix組織になっている。これにもちろん米州、欧州中近東、アジアといった地域別組織も加わる。

Matrix組織の長所としては、複数の軸で組織編成するために単一軸の持つ弱点をカバーできること、地域、商品、顧客のそれぞれの視点で対応することができ多面的な情報蓄積、活用が可能となること。短所としては、 地域、商品、顧客担当の各マネジャーが存在し連絡や管理が複雑になること、関与者が増え調整に要する時間も増え意思決定が遅れやすいこと、組織の屋上屋を重ねることになりやすいこと。元々異なった視点の立場からディスカッションを繰り返して最適な解を導き出すことを目的とした組織なので「衝突が当然」と考えて努力するしかないんでしょう。


posted at 10:08 AM : |


October 07, 2004

Congruence Approach - 4. Linking

"Linking"とはHRのようなformalな人事システムではなくinformalにどう人同士がつながっているか、ということ。INSEADの授業の中で例として挙げられたのはXeroxのコピー機の保守・メンテサービス部隊の人たちが実際に出張先の保守・メンテの現場で参考になるのは詳細まで記述されたマニュアルではなく数多くの現場経験を踏んだ先輩・同僚の体験談であり、そういった体験談は部課内のミーティングではなく朝始業前に会社のコーヒーコーナー(アメリカの話なので)で立ち話をしたりするときに聞けるもの、という話。

そう言われてみれば稟議を通す時に上の上の上まで入念に根回しをすることによって話がスムーズに通ったり、部署は違っても入社同期の飲み会での話で自分の会社の知らなかったことを発見したりとLinkingは日本企業、欧米企業問わずとても重要。

よく思うのだけれど、社内の「たばこ部屋」ではどんな会話が行われてるのかなー?と思う。私はたばこを吸わないのでもうもうと煙が立ち込め、ガラスまで黄ばんでいる(そんなことはないですか?)たばこ部屋に足を踏み入れることはないけれど、あそここそ違う部署で普段仕事上では縁のない同じフロアの人とLinkingができる絶好の場所。たばこを吸うというだけで仕事的には関わる必然性のない人と数分間同じ時間をともにすることが1日に数回(多い人は数十回)あるという不思議。「たばこ部屋から始まった恋」っていうのがあってもおかしくなさそうだなー(ないか、そんなもん・・・)


posted at 10:20 AM : |


October 06, 2004

Congruence Approach - 3. HR

今日はCongruence Approachの中のHR。

人事評価、インセンティブなど従業員のValues(価値観)を形成するのに非常に有効でどこの会社でも組織変革を行うときはHR変革から入ることが多い。

最近は年功序列ではなく"merit-based"(能力・職責に応じた)人事評価システムに移行する企業が増えているとはいえ、自分より10も年下の上司の上で働くのはまだまだ抵抗がある」というのがまだまだ普通の日本企業に勤めるサラリーマンの感覚。

最近プロ野球参入で話題のライブドアの堀江社長の『堀江貴文のカンタン!儲かる会社のつくり方』を読んだ。その中で多くのページを費やして書かれているのが「いかにしてその時々の会社の規模・レベルに合った組織を作り上げるか」ということ。

会社が小さな頃からそんなに次から次へと優秀な人が集まるわけがなく従業員20人の創業1年の会社にはそれなりの1,000人の上場会社にはそれなりの人が集まるというのは当たり前で会社が急激に成長している場合には昔からいる人のレベルが会社のレベルや新しく入ってきた優秀な人のレベルに合わなくなり創業メンバーを含めて多くの人間に会社を去ってもらわなければならなかった、という話。
こういう会社では年次によって自動的に昇進するとか古株が新しく来た人の人事権まで握っているため昇進を妨げる、といったことはありえず、人事制度の面からも強力に会社のカルチャーを形成しているのだろう。

本の中で出てきたのは「360度評価制度」というINSEADの授業でもよく出てきた人事制度。これは上司が部下を評価するだけではなく部下が上司を、また同僚同士で、といった具合に文字通り360度の方向から評価を行うもの。私は(残念ながら?)いわゆる日本の大企業でしか勤めたことがないので上司も同僚も評価したことはないけれど実際どう機能しているのか(部下からの評価が悪くマネージャーとして烙印を押された場合どのように本人に通知しているのか、とか)体験してみたいものです。


posted at 2:08 PM : |


October 05, 2004

Congruence Approach - 2. Values

昨日に引き続き第二回目はValues。

私ははじめVisionとValueの違いがわからなかったけれど、Visionが経営Topから示されるものであるのに対し、Valueは従業員が共有している価値観、企業文化と置き換えてもいい(教授が「文化」という言葉が嫌いだった)。

「金儲け第一主義」「お役所仕事」なんていうのも従業員が共有しているValueの結果現れるものでクラスでは成果報酬が徹底しすぎたため部署間でも足を引っ張り合うような状況になっていた1990年代初めの米投資銀行Morgan Stanleyが企業として一丸となる精神を従業員に植え付ける過程を取り上げた(余談だけど友達の弟に薦められて読んだ本『ウォールストリート投資銀行残酷日記 - サルになれなかった僕たち』、世間一般のサラリーマンから見れば考えられないような日常だけど、米投資銀行の内実を描いているという意味ではある程度誇張ではあってもあながち嘘ではないんでしょう・・・)

Valuesがどのように育つのかは意外とわかりやすい。組織・個人が売り上げや利益など数値目標だけで評価されれば上述の「金儲け第一主義」になるだろうし、規則通りに仕事を進めることだけが重視されれば「お役所仕事」になるだろう。相次ぐ不祥事で消費者の信頼が地に落ちた雪印などはトップ企業である驕り体質が蔓延していたと報道されていたが、内実はどうだったのだろうか?

会社のValuesに個人の価値観が染まってしまうのも怖いけれどよくあることで「学生時代の友達と数年ぶりに会ったらすっかり銀行マンっぽくなっていた」なんていうのもよくある話(別に銀行マンが嫌いなわけではないですが・・・)。


posted at 9:19 AM : |


October 04, 2004

Congruence Approach - 1. Vision

P3で取った"Corporate Renewal & Entrepreneurship"の授業は企業が成熟期に入った時、創業時、成長期での起業精神をどこかへ置いてきてしまい、業績不振(マーケットシェアの低下、利益率の低下)ひいては倒産してしまうケースもあるが、企業を再生するにはどうすればよいのか、というのがテーマだった。クラスでは"Congruence Approach"(調和アプローチとでも訳せばいいのだろうか?訳不明)という聞きなれないフレームワークを使用して問題の所在を分析することから始まった。

"Congruence Approach"とは企業が直面する問題は7つの要素(Vision, Values, HR, Linking, Structure, Process, People)の組み合わせからなるというもの。

私たちが企業の中の一社員として働いていて日々感じる何となく納得いかない気持ち、もやもやとした不満は大体この7つの要素とその組み合わせで説明ができる気がする。実際わたしもこの授業を取って以来「なぜかうまくいかなかったこと」の理由が少しわかったような気になった。

そこで7つの要素のそれぞれの意味するところは何か毎日ひとつずつ取り上げてみます。

第一回の今日はVision。
Visionとは『ビジョン』や『ミッション』のような表現で最近ではどの企業のHPでも会社概要のページで見られる。意外と自分の会社のビジョンを知らなかったりするので皆さんチェックしてみてください。
Harvard Business Reviewの"Building Your Company's Vision"(1996)という記事によるとVisionとは"Core Ideology"(核となるイデオロギー)と"Envisioned Future"(将来像)からなり、"Core Ideology"はさらに"Core values"と"Core purpose"に分けられている。

"Core values"とは企業の内部の人間に向けた規律・メッセージであり例としてはWalt Disneyの"Creativity, dreams, and imagination"や創業時のSonyの"Elevation of the Japanese culture and national status"が挙げられている。

また"Core purpose"はその組織の存在意義であり、McKinsey & Companyの"To help leading corporations and government be more successful"、Nikeの"To experience the emotion of competition, winning, and crushing competitors"などが挙げられている。

"Envisioned Future"とは企業の描く自らの将来像のことであり"BHAG(Big, Hairy, Audacious Goals)"と"Vivid description"が必要。
"BHAG"は直訳すると「大きく毛深く大胆なゴール」。どのくらい使われる言葉なのかわからないけれど私がMBAで新しく耳にした言葉の中でもかなり好きな部類に入る言葉で「10-30年くらいのスパンで実現したい壮大で大胆だけれども夢物語ではない、実現不可能ではないゴール」のこと。明らかに競合(既存の巨大企業)を意識したものも多く、例えば1970年代のHondaのBHAGは『ヤマハをつぶす!』だったし、1940年代のStanford大学のBHAGは"Become the Harvard of the West"だった。そしてこの将来像はビビッドでわかりやすく表現されなくてはならない。その意味では上記のHondaもStanfordも合格。

経営陣からこのVisionが明確に示されていないと従業員は何のために働いているのかわからなくなる。株主もその企業が何を目的として存在しているのかわからなくなる。


posted at 9:00 AM : |


October 03, 2004

Bottleneck

日本でも数年前に話題となった本『ザ・ゴール - 企業の究極の目的とは何か
』、オペレーションの授業でも"recommended"の本だった。私は留学前に読んだけれど、とても長いので冗長な感はあるにしてもわかりやすくオペレーションとは何かを平易な文で書いてあるのでお勧め。

この本の肝は"bottleneck"。日本語でも「この計画はここがボトルネックだ」というような言い方をするけれど、フロー(一連の製造工程を思い浮かべてください)の中で最も生産性が低い箇所のことを言う。製造工程においてどうしてもこの箇所を通らなければ製品が完成しない場合、ボトルネックの生産性=工程全体の生産性になってしまうため、いくらそのキャパシティー以上プロセスに投入しても処理しきれないしボトルネック部分は常にフル稼働している状態になるので故障しやすくダウンタイムが長くなることにもつながる。そこでボトルネックを解決すること(もう1台機械を並列で入れてみたりボトルネックをオフラインで動かしてみたり)にfocusすることがしいてはプロセス全体の生産性アップにつながる、というお話。


posted at 10:42 PM : |


October 02, 2004

Naming

イチローの記録更新の瞬間を見ました、TVの生中継で。オリックス時代からのイチローファンの私はチームメイトの祝福を受けながら珍しく目が潤んでいたイチローを見ながら同じく目がうるうるしてしまった。記念すべき日ということで今日はMBA用語でも何でもないけどネーミングについて。

イチローはもちろん100年に一度の天才打者なんだろうけど、何といっても「イチロー」というネーミングが素晴らしい。プロ野球選手になってすぐ、まだまだ体の線が細くその後の活躍なんて誰も想像できなかった頃に当時の監督仰木監督ががつけたらしい。日本でありふれた苗字Top3に入る(と思われる)「鈴木」だと平凡すぎて埋もれてしまうし「一郎」だと何だか古臭いし「いちろう」だと強くなさそうだし「イチロウ」だと「イチョウ」みたいだし・・・ イチローが花開いた背景にこの親しみやすくかつ現代的なイメージのするネーミングがあったからだと思う人はわたしだけじゃないはず。

会社名にしろ商品名にしろ「名は体を現す」で本当に大事。米Apple Computerとマルチカラーのリンゴのロゴはもはや切り離せないものになっていて(果物の)リンゴのイメージそのものまで上がってしまったんじゃないかと思うけれど、あれがOrange Computerだったら全く違う会社になっていたんだろうなー

最近ですごいと思ったネーミングは『負け犬』。結婚経験、子なしの30代以上の女性を『負け犬』と定義した『負け犬の遠吠え』はすさまじい内容の本です。著者自身負け犬に分類される人なので負け犬の生態、大量発生の原因から将来予想まで恐ろしいほど的確な分析・・・ちなみにこれを書いている今はTVで『恋のから騒ぎ』をやっているけれど、長年続いているこの番組の応募対象年齢は18-30歳。負け犬は『恋から』でさんまの差別的発言の対象にさえならせてもらえないらしい。


posted at 9:34 PM : |


October 01, 2004

Pooling

今日はいつもと嗜好を変えてProcess and Operation Managementのクラスから。このクラスはSupply Chain Management、Process Designといった製造業に不可欠なオペレーションの基礎を学ぶクラスでさまざまな計算式を使った演習が多く難しいクラスだった。すでに大半は忘却の彼方にあるけれど、その中でも実生活でよく見ることができる"Pooling"について。

"pool"とは要は「一時的に溜めておくこと」。ダムに水を溜めておく、いつでも引き出せるように銀行普通預金口座に100万円入れておく、、、どれも"pool"だけれど、オペレーションでいう"pool"で一番わかりやすいのがトイレの順番待ちの例。私が小さい頃はトイレが3つあればそれぞれのドアの前に1列ずつ合計3列できていたように記憶しているけれど、それでは「外れ」の列に並んでしまった場合隣の列がどんどん進んでいるにも関わらずいつまでも待たされるはめになる。これをフォーク型(1列に並び開いたトイレに先頭の人が入る)にすることによって平均の待ち時間は格段に短くなる、これが"pooling"。

"pooling"が活用されている例は世の中にたくさんある。私がフランスから帰ってきて「日本はすごい!」と改めて感動したのが銀行を初めとしてDoCoMoショップその他サービス業の営業所で見られる整理券取りシステム。訪れた客は一応それぞれの用事の内容(口座開設、海外送金、振込みetc.)に応じた整理券を取りソファに座って番号が呼ばれるのを待つのだけれど、窓口では自分の担当分野の客を優先しつつ手があいたところから混んでいる業務の客も対応することによって全体としての客の待ち時間を少なくするような工夫がなされている(のだと思う)。ほとんどすべての手続きの申込書のブランク用紙があらかじめ用意されている点とともにフランスの銀行にぜひ見習って欲しいこのシステム。

いくら短縮できるかは訪れる客の数、窓口対応の従業員数、平均応対時間、客が訪れる頻度(昼時は30秒置きに来るが午後2時は5分置きにしかこないetc.)がわかれば計算できるのだけれど、ぜひこういった効率性やサービス精神を輸出してほしいものです。

なお、日本でも早く"pooling"を導入して欲しい箇所が1つ、それは空港のパスポートコントロール。海外の空港ではけっこう"pooling"やっているところが多いです。



posted at 10:44 PM : |


             

キーワードで解くMBA