November 29, 2004

Balanced Score Card

今日の日経新聞で新生「三菱UFJ」が"Balanced Score Card"(BSC)という経営管理手法を導入するとあった。

INSEADでも"Balanced Score Card"は"Management Accounting"(管理会計)のクラスで登場。

企業業績を(1)Financial Perspective(財務の視点)に加えて、(2)Customer Perspective(顧客の視点)、(3)Internal Process(業務プロセスの視点)、(4)Learn and Innovate(学習の視点)といった4つの視点で幅広く定義し、それらのバランス(短期的な成果から中長期にわたる取り組みの成果)を保ちながら、企業の財務業績を中長期的に実現する手法。

何だか抽象的だけど、個人レベルの人事考課でも目標を数値目標("Key Performance Indincator"により)まで落とし込むことが重要。
実際は企業→事業部→部→課→個人などとBSCはそれぞれ作成され落とし込まれていく。

例えば、、、
(1)財務の視点
これは今までの業績評価にも組み込まれてきた視点。営業であれば売上額、利益率、新規顧客獲得数、といったところ。管理部門であれば削減コストなど。
(2)顧客の視点
販売員であれば顧客アンケートによる満足度調査結果、品質保証部であれば顧客クレーム数、保守・メンテ部門であれば対応にかかった時間など。
(3)業務プロセスの視点
製造部門における歩留まり、事務作業でのミスの数、受注から納入までのリードタイム、その他いろいろ考えられる。
(4)学習の視点
研究部門であれば特許申請数、管理職であれば部下の数、財務目標達成度の前期比など

このように、財務的な数値目標だけでなくさまざまな側面から評価される(する)ことになる。

私自身は残念ながら"Key Peformance Indicator"のはっきり定められた評価制度の下で働いたことがない。どんなものか自分で作ってみようかなー、などと思っている次第。


posted at 12:09 PM : |


November 25, 2004

KAIZEN

10数年に及ぶ不況からいまだ抜け出せず、MBAの授業でもあまりよい例で取り上げられることのない日本企業・・・ 日本人学生にとっては肩身の狭い昨今だけど、いまだに日本企業が数多く取り上げられるのがオペレーション(生産管理など)の授業。TOYOTAのKANBAN方式をはじめ日本語頻出。授業中も実によく当てられた。

そんな日本語のひとつが"KAIZEN"。そう『改善』。英語では"Continuous Improvement"と訳され、製品や製造プロセスなどを継続的に改良することの大切さを教授がさもすごい理論であるかのうように学生相手に説き、学生は"KAIZEN"とノートに書き込むのである。はじめて聞いたとき私の頭の中は"??????"。
「っていうか、企業が生き残っていく以上継続的に改良することなんか当たり前じゃないの?」
でも10年前からきっとちっとも変わっていないんであろうフランスの銀行や郵便局やガスや電話その他もろもろの劣悪サービスに直面するたびに「KAIZENが当たり前じゃない社会があるんだ」と納得したもんです。

で、このお手本ともいえるのが97.5%という脅威のリピート率を誇る東京ディズニーランド。私はテーマパークは興味ないので付き合いでしか(?)行かないけれど、そんな私でもディズニーシーを合わせると4回も行ってしまっている。浦安市に住む私の知り合いは年間パスポートを持っていて毎月(!)通っている(もちろんお子さん持ちだけど、それにしてもすごい)。

ディズニーランドの秘密はいろいろな本でも書かれている。
『東京ディズニーランド「継続」成長の秘密 -“ディズニー的”教育訓練の底力』
『ディズニーランド流心理学 - 「人とお金が集まる」からくり』
『ディズニーリゾートの経済学』

数ある秘密のうちのひとつは、「いつ行ってもどこかに新しい感がある」「飽きさせない」ことだと言われている。新しいアトラクション、レストラン、パレード・花火・ショーなどのイベント、プレミアグッズ... そして「新しい感」と同時に「いつ行っても夢の世界に連れていってくれる☆裏切らない感」も必要。

継続的に改良しつつ高いレベルのスタンダードも外さない。東京ディズニーランドはすでに日本のものですね。ユーロディズニーの失敗はアメリカとフランスの文化的背景の違いを原因として語られることが多いけれど、"KAIZEN"で解決するような問題じゃないんでしょうかね?


posted at 11:57 AM : |


November 24, 2004

Value Curve

月曜日を休んで4連休にし、九州温泉の旅に行ってきた。
そこで泊まった旅館、『宿潦 ばん屋』が抜群に良かった。何がそんなにいいのか考えてみると、「旅館がいい」と決める顧客価値(=価格、料理、サービスetc.)のバランスが抜群にいい。

INSEADのStrategyのクラスで"Value Curve"というコンセプトを習った。これまでにも紹介しているがStrategyではShareholder's Value、Michael PorterのFive Forcesなどさまざまなフレームワークが編み出されている。
Chan Kimという名物教授が提唱しているこの"Value Curve"は一言で言うと「顧客が価値を見出している要素を上げ、業界構造上コストとなっている要素を大幅に削る」というもの。詳しくはValue Innovationという資料を読んでみてください。とても面白いものです。


美しいつきだし
で、湯布院から車で15分ほどの湯平温泉という温泉町にあるこの『宿潦 ばん屋』、素晴らしいお料理と貸切露天風呂が堪能できるのに1泊2食つき1名13,000円(くらいだったはず)と破格(詳しくはじゃらん見てください)。それは旅館につきものの「なくてもいい」サービスを省きつつ、重要なところ(とにかく料理!)に力を入れているから。

例えば、
□チェックインするとすぐに女性はフロント脇にかけてある浴衣の中から好きな浴衣と帯を選べる→客は自分好みの浴衣が選べる(顧客価値↑)、宿側は浴衣を部屋に準備しておく手間が省ける(コスト↓)
□夕食の中の釜飯と豆乳鍋、どちらも1人用の器に用意されており、席についてから火をつける→1人鍋はよくあるけど釜飯は初めて! でも炊きたてホカホカが味わえる(顧客価値↑)
□運ばれてくる夕食だけで料理が十分なのに廊下には大皿料理が並べられ自分で取りに行き小鉢に好きな量だけ盛る形式→量が足りない客でも満足、味も抜群(顧客価値↑)、サービスの手間を省ける(コスト↓)
□露天風呂は貸切とはいえそれぞれの部屋についているのではなく、4つの個性あふれた風呂それぞれが空いていれば自由に入り中から鍵をかける方式→客は貸切やお風呂を選ぶ満足感が得られ(顧客価値↑)、宿側のコストも押さえられる(コスト↓)
□女中が部屋の布団を敷くサービスはない→(コスト↓)


豆乳鍋
他にも朝ごはんには手作り豆腐にかけるごまを自分ですれるようにすり鉢とすりこぎがついてきたり、コーヒーカップが自分で選べたり・・・

本当にうまくサービスを省きつつお客さんに「自分仕様」気分を与える、、、そのバランスが絶妙だった。考えてみれば旅館はサービスが過剰だけれどホテルは素っ気なさすぎ、、、その隙間をうまーくついたまさに"Value Curve"をうまく変えた例だった。湯布院に行くなら少し足を伸ばしてここがお勧めです。


posted at 1:50 AM : |


November 18, 2004

Commitment Tactics

今日も"Negotiation Analysis"の授業から。
値段交渉において「これがfinal offerだ、これ以上は値段を上げ(下げ)られない」と言うとき、「〇〇の条件を飲んでくれたら△△に従うよ」とtrade-offを申し入れるとき、、、"Commitment"(約束事、言質)を行うときにはいくつかの戦術がある。

1.守れなかった場合の罰則を自ら設ける
1.1 地位ある人の名誉に関わる、という
e.g. 「組合幹部はすでに工場労働者に対してUS$3に最低賃金を引き上げることを約束してしまったんですよ・・・」
1.2 前例、規則、感情、公平性に訴える
e.g. 「おっしゃることはわかるのですが、なにぶん我が社に前例がないもので・・・」
1.3 既成事実を作る
e.g. 「エンジニアリング会社はすでに設計を始めており仕様を変更するとコストがかかります」
1.4 嘘をつく
1.5 自分の権限外だという
e.g. 「現金払いによるディスカウントは会社方針で認められておりません」

2.コミュニケーション・ルートを断つ
e.g. 「あいにく部長は今週いっぱい休暇中でして」

3.締め切り
e.g. 「変更は取締役会の承認が必要ですが時間がありません」

4.代理人を立てる
FA宣言したプロ野球選手の代理人や検挙された容疑者の弁護人など、交渉のプロは緊迫・紛糾した状況に慣れており、また争点/論点が「契約条件」「容疑の真偽」など明確になるため

今、全国民が注目している「交渉」である北朝鮮による日本人拉致問題。北朝鮮は今まで交渉の場で
1.3 既成事実を作る e.g. 「拉致問題は2002年の朝日協議で解決済」
1.4 嘘をつく e.g. たくさん
などいろいろなtacticsを用いてきたが、そのどれも信憑性にかけうまく使えていないようです。

昨日の解答:
a. 2億3132万8092人(推計)、b. 53、c. 1,282,000km2、d. 700、e. 3.51%、f. 10,920m、g. 約5,000kg、h. US$59,510,000,000、i. 450、j. US$1,555,090 million


posted at 11:39 AM : |


November 17, 2004

Confidence Interval

昨日の続き。
2者間の交渉でZOPAを分けるにあたって「自分のRP(Reservation Price、留保価格)の決め方」を飛ばして、授業の中でクイズをやって面白かった「相手のRPの読み方」について。

相手のRP(昨日の家の売買のケースであれば売り手に取っては買い手が出せる価格の上限)を読む際に「エイヤ!」で"best guess"、ピンポイントで特定の値を類推することは非常に難しい。100%の自信を持ってピンポイント価格を推定できるケースは稀で、"best guess"ではその「自信の度合い」(統計用語で"Confidence Interval"、訳は「信頼区間」)を無視していることになる。よって、多くの場合「5,000万円台であれば出すんじゃないかなー」などと幅を持たせて類推することになり、幅を持たせていると相手のオファーが"best guess"からかけ離れていた場合でも対処がしやすくなる。

この"Confidence Interval"を測るのに面白いクイズをしたので、紙と鉛筆(パソコンでもいいけど)を出してやってみてください。

以下の質問について「自分が90%の自信を持って答えられる範囲を持たせて」回答してください。答えは「〇から〇の間」となります。

a. 2002年のインドネシアの人口
b. アフリカ大陸の国連加盟国の数
c. ブラジルの面積(km2)
d. アメリカの製薬会社の数
e. 1987年の日本の長期金利(年平均)
f. マリアナ海溝の深さ(m)
g. インド象の重さ(平均、kg)
h. 1980年のモービル石油の売上
i. 樫科の植物の種の数
j. 1995年のフランスのGDP

90%の幅でしかも上限も下限も自分で決められるのだから、思いっきり幅を持たせればいいのに自信過剰な人の多いこと、多いこと。クラスでは正解が自分の書いた範囲内にあった人が10問中3問、4問レベルだった人が多数、大方の人は6問以内、7問だった私は謙虚の塊、人間の鏡(?)、9問だったルクセンブルク人は「全部下限を"ゼロ"にしたんだろー」と言われている始末だった。

自分の自信が当てにならないか、という例です。クイズの正解は明日。


posted at 11:50 AM : |


November 16, 2004

ZOPA

INSEADで一番人気があった授業といえば、P4, P5で行われたIngemar Dierickxというベルギー人教授による"Negotiation Analysis"。P4では40人のクラスが4クラス、P5でも2クラス開かれ(Fontainebleau Campusには300人ほどしかいないというのに)、それでも選択科目を競り落とすための持ち点が足らずに取れない生徒がいる、という人気ぶりだった(当時の授業の様子については私の留学中のBlog3月23日と25日に触れてます)。

残念ながら私たちが彼の教える最後の代だったらしく、今はもうこの名物授業は開かれていない。交渉術を戦略的に考えるこのクラス、彼の話術が真骨頂なので伝えるのが難しいけれど、その一端をお伝えします。

当事者が2者で論点が一点の交渉の場合(家の値段の交渉など)、交渉は以下の4つのコンセプトの元行われる。
1. それぞれが"BATNA(Best Alternative to Negotiated Agreement)"を持つ。
-->家の売買のケースの場合、売り手は他に「この値段で買いたい」という人がおり、買い手は他に選択肢がある。

2. それぞれのBATNAが各自の"RP(Reservation Price)"(留保額)を決定する。
-->売り手は他に高く買ってくれる買い手がいればそちらに売ればいいのでその金額が売り手のRP、買い手は他の選択肢(違う物件、借りる、我慢する)の方がよいと判断される価格以上では買わないのでその価格が買い手のRPとなる。

3. それぞれのReservation Priceが交渉の範囲を決定し、その範囲を"ZOPA(Zone of Potential Agreement)"と呼ぶ。
-->売り手が4,500万円以上なら売ってもいいと思っていて、買い手が6,500万円以下なら買ってもいいと思っていた場合、その間の2,000万円がZOPAである。

4. ZOPAの中でのある価格(P)で合意することにより、売り手と買い手は自分の"surplus"(利潤)を獲得する。
-->決着価格が5,800万円であれば、売り手のsurplusは5,800万-4,500万=1,300万円、買い手のsurplusは6,500万-5,800万=700万円である。

問題はではどうやって2者が"ZOPA"を分け合うか、ということ。
授業では延々と自分のRP(留保額)の決め方、相手のRPの読み方、落としどころの決め方、交渉プロセスで使う戦術、相手へのシグナルの出し方、相手のオファーに対する反応の仕方、良好な交渉環境の維持の仕方、、、などやったので明日からその一部を紹介します。

アメリカで「史上最大のバーゲン」と呼ばれるのが、1626年オランダの西インド会社がネイティブ・アメリカンからマンハッタン島を60ギルダー(24ドル相当)で買い取った有名な逸話。現在の物価でも100ドル相当というこの価格、ネイティブ・アメリカンはオランダの通貨をもらっても仕方がないのでガラス玉・酒類・日用品などとの交換だったそうな。いくら当時はただの野っ原で土地はあり余るほどあったとはいえ、彼らのRPはいくらだったんでしょうか? そして西インド会社のsurplusは?


posted at 11:54 AM : |


November 15, 2004

Six Sigma

私が以前勤めていたのは「シックス・シグマ」を日本で実践していることで有名な代表的な企業だった。
"Six Sigma"とは統計でいう標準偏差σが平均から"6σ"分以上離れていることを指し、品質特性検査で100万回に3、4件のエラーが起こる確率に値する。これを経営に応用し、ビジネスにおけるあらゆるエラー・欠陥を100万分の3?4の確率以内に抑えるシステム・プロセスを構築しようというものがいわゆる「シックス・シグマによる経営」。

私がいた会社ではプロセスに一般的に言われる"MAIC"= M(Measurement):測定、A(Analysis):分析、I(Improvement):改善、C (Control):(改善結果定着のための)管理の前にD(Define):定義、を置いて、年2回人事考課のタイミングで各自がシックス・シグマに基づいた前期のレビューと次期の目標設定とを行った。その他「ブラック・ベルト」「グリーンベルト」などプロジェクトを推進するメンバーや"VOC"=Voice of Customerなどシックス・シグマ特有の用語もある。

実践していた会社にいて思ったことは、特に私のように「エラー率」など数値として導き出せない業務についている者にとって効果を測定することは難しく他の考課方法と比較したメリットがあまり肌で感じられないが、"MAIC"+"D"のプロセスを実践していると認識していることが大事なのかなー、という程度です。
参考:シックス・シグマオフィシャルHP


posted at 6:33 PM : |


November 13, 2004

Fear Appeal

今日フェイシャル専門のエステのお試しコースに行った、、、つもりだった。
つもりだった、というのはHanakoでは1,000円でフェイシャルのトリートメントフルコース体験と紹介されていたので気軽な気持ちで行ったのだけど、実際はそこはエステサロンではなく化粧品を売ることが本業でエステは化粧品を買った会員に対する無料サービスという位置づけだった。

まず、会社や仕組みの概要の説明を受けた後、洗顔でメイクを落とす。ショップの「カウンセラー」に渡されたメイク落としで落とし始めた瞬間「キャー」という声が。
「いつもそんな洗い方なんですかー?!そんなに荒くこすると頬がおばあちゃんみたいに垂れてしまいますぅー」
「はぁ、そうですか・・・」

洗顔が終わった後は肌診断。青い光線を当てられ、しみやしみ予備軍が黒く浮かび上がるよくTVで見るあれ。当てられた瞬間またしても「キャー」。
「表面を見た時はわからなかったですけど、こうやって肌の中の層まで見てみると思ったより黒くなっちゃってますねー。これはもうしばらくすると出てきちゃうかもしれないですねー」
たしかに、そもそも夏の間の日焼けが気になったから来たんだし、黒く斑点が浮かんでるけど・・・

こうやってさんざん脅されているうちにマーケティングで習った"Fear Appeal"という言葉を思い出した。"Fear Appeal"とは文字通り消費者の不安にアピールしてどうすればその不安を除去できるかを訴求する方法。典型的なのが保険商品。「あなたが亡くなった時残されたご家族はどうなるんですか?」というあれ。
他にも口臭除去など衛生関連商品に多い。中高年層向けのアンチエイジング系の化粧品もまさにそう(ネーミングからして「アンチ」だし)。

もちろん人をさんざん落とした後はあげることも忘れない。
腕の内側の柔らかい部分の肌(日の当たらないところ)をシリコンみたいなもので型を取って「元々はこんなに肌理(キメ)の細かいきれいな肌されてるんだから、この状態に戻してあげましょーよー」とくる。
それなりに説得力があるし、多少大げさだけどものすごく押し付けがましい感じもしないので、途中からは「この人たち、このセールストークが一番のスキルなんだなー」とエンターテイメントを楽しんでいるような気になってしまった、あんなに不気味な青の光の中に浮き上がった大量のしみ予備軍を見てしまった後だというのに。

確かにトリートメントを受けた後は、お肌ぷるんぷるんになったけれど、いくら("もうすぐしみだらけの顔になるわよ、あなた!"という)恐怖に訴えられたことで残念ながら20万円もする化粧品は買えません。土曜の昼間、店内は中高年女性でたくさん。皆さんFear Appealが効いたんですねー


posted at 11:54 AM : |


November 10, 2004

Coaching

私が初めて"Coaching"という概念と出会ったのは、INSEADで、でも授業中ではなくてクラスメイトのブラジル人Pauloからだった。イタリア人とアルゼンチン人のハーフであるPauloはNYのCitibankで人事をやっていたという(コンサルや投資銀行出身者の多い)MBA学生の中では少し変わった経歴の持ち主。そしてまた漠然とキャリアチェンジをしたい、早くマネージャーのポジションにつきたい、高給が欲しい、起業したいけど何でしたいかわからない、というクラスメイトと違って、彼は自分のやりたいことがはっきりわかっていて、そのためにMBAに来ている、と自信を持って語っていた。

そのPauloの目指しているものが「経営者のCoach」。コーチングとは元々スポーツの世界からきた言葉(いわゆる選手とコーチの関係)だが90年代になってアメリカでビジネスの世界で応用されるスキルとして発達した。従来のようにマネージャーが部下に課題を与えその答えを教えるやり方と異なり、「人の能力とモチベーションを最大限に引き出し、自己実現をサポートするためのコミュニケーション技術」のことをいう。

私がPauloに「コーチになるためになんでMBAが必要なの?」と聞いたところ「経営に最小限必要な知識、ビジネススキルを身につけ経営者が抱えている悩みを本当に理解しコーチするためにはMBAが必要だと思った」との答え。そして「本当に世界のトップ経営者をコーチできるようなレベルのコーチはコーチング先進国のアメリカで10数人しかいない」「そんなトップコーチの1人に会ってこれが天職だ」と思った、という。

確かに最近日本でもよく聞かれるようになってきた「コーチ」にはMBAを持っている人が多いし、実際にP5の"Managing Entrepreneurial Growth"の授業でもリーダーを育てる方法のひとつとして習った。Pauloが天職だと語ったCoachingという言葉が何となく気になって帰国した後、私と年の変わらない学生時代の友達がコーチをつけていることを知って衝撃を受けた。考えてる人はこの年でコーチをつけてるんだなあ、と。そして考えてみると自分の可能性を引き出すのに年も何もないのかなー、と。これからも気になる言葉です。


posted at 9:51 PM : |


November 08, 2004

Prisoner's Dillemma

どのMBAでも「ゲーム理論」は必ず出てきてINSEADでの選択科目のひとつとなっていた(私は取らなかった)。Core Courseの"Price & Markets"(ミクロ経済)でもさわりだけやったけれど、どうも頭の構造があまり論理的にできていないのか複雑な例題になるとついていけず・・・ 解説できるほどではないのだけれど復習も兼ねてトライ。

「ゲーム理論」の中で最も有名かつ基本的なのが"Prisoner's Dillemma"(囚人のジレンマ)。
共犯で重い犯罪を犯した2人の人間が逮捕され捕まっている。景観が2人を別々の場所に隔離して取調べを行い、それぞれに「もし相手が黙秘し、お前だけが重罪を自白したら無罪にしてやろう」と司法取引を持ちかけている。もしこの誘いに乗って本当に自分だけが黙秘し、相手だけが自白したならば自白した方は無罪で釈放、黙秘した方は罪が重く8年の懲役が課せられるものとする。共に自白した場合は両者とも5年の懲役、共に黙秘した場合は共に1年の懲役となる。あなたが囚人ならば黙秘するか?自白するか?

図("payoff matrix"という)で表すと次のようになる。( )内は先が囚人A(縦軸)のオプション、後が囚人B(横軸)のオプションである。




黙秘自白
黙秘(-1, -1)(-10, 0)
自白(0, -10)(-5, -5)


囚人Aの立場から見る。
相手が黙秘した場合、自分が黙秘するとpayoff(利得)は-1、自白すると0になるので自白した方が得。
相手が自白した場合、自分が黙秘するとpayoffは-10、自白すると-5になるので自白した方が得。
よって相手の出方がどうであれ自白した方が得、という結論になる。相手の出方がどうであれ自分の選ぶ戦略が決まってる場合、それを"dominant strategy"(支配戦略)と呼ぶ。
囚人Bの立場から見ても同様なのでBの"domiinant strategy"も「自白」。

よって2人とも自白し、(-5, -5)で共に懲役5年となるのだが、全体として見た場合最も望ましいのは2人とも黙秘し(-1, -1)と共に懲役1年で刑務所から出てこれることである。ところが、上記のように個人の合理的な行動の帰結は必ずしも全体にとって良い結果と一致しない。これを"Prisoner's Dillemma"という。

囚人のジレンマを解決する方法はそれぞれにとっての"dominant strategy"を我慢して協力することである。

「ゲーム理論」は国際関係の国同士の駆け引きを分析するために多く用いられてきた。
囚人のジレンマの例ではOPECが当てはまる。OPECは石油の生産量を制限することで石油の高価格を維持する戦略を採ってきた。高価格が維持された状態ではそれぞれの国は少しズルをして制限量よりも多く生産すればもっと儲かるが、一国がそれをやってしまうと原油価格は下がってしまい結果として生産量を制限していた時の利益が得られなくなる。よって囚人のジレンマでは裏切りに対する監視、制裁のシステムが必要となり、制裁の適正化と制裁実行の確約が重要となる。

イラク戦争、チェチェン問題、、、世界はまだまだ(よりいっそう?)駆け引きが必要な場面で溢れている。各国の政権内には専門家が控えて助言をしているのと思います。


posted at 1:52 PM : |


November 07, 2004

N↑, P↑, C↓, σ↓

ここ3週間くらいオーストラリアのメルボルンに仕事で来ている。
オーストラリアは英語圏の中では距離的に日本に近く、温暖な気候、治安の良さもあって長期滞在、永住している日本人が非常に多い。
日本人が多いということは日本人を対象としたフリーペーパーも多く私がもらってきたのだけでもNICHIGO PRESS、Voice Melbourne、Dengon Net、DÔMO、Pocke Mel・・・とある。OVNIぐらいしかなかった(7月まで住んでいた)フランス在住日本人からすればこの充実した環境はうらやましいばかり。

これらフリーペーパーは広告が収入源なので中の半分(以上?)は当然オーストラリア在住日本人を対象とした広告で占められていて、こんなに日本人を対象としたビジネスが多いことにまた驚く。

INSEADの"Global Strategy and Management"のクラスでは企業がグローバル国内のみのビジネスから国外へと拡大するのには4つの理由があると学んだ。
すなわち、より大きい市場(Number=N)を求めるため、より高い価格(Price=P)で売れる市場を求めるため、コスト(Cost=C)を下げるため、そしてリスク(σ)を下げるため。
どんな企業でもグローバル化する際にはこの中の1つ以上の理由がある。

私が集めたフリーペーパーの中にたくさんある日本企業の広告を見ながらどれに当てはまるか考えてみた。ちなみにオーストラリアのみで事業を行っているビジネス(飲食店など)は「国外にビジネスを拡大した」わけではないので当てはまらない。

N↑
フリーペーパー自体が個人の読者を対象としているので、このケースが一番多い。
メガネの三城、クロネコヤマト、JALPAK、テンプスタッフ・・・
すべて何万人ものオーストラリア在住日本人という顧客ベース拡大を目的に海外進出(駐在員事務所、支店、現地法人設立)したもの。

P↑
日本よりも高い価格をチャージしているケース。コストが変わらない(もしくは現地の方が安い)のにpremium priceをチャージできている例は日本人美容師のいる美容院じゃないかと思う。
女性にとって信頼できる行きつけの美容院を確保することは死活問題。日本でさえ「美容院ジプシー」(気に入った美容院が見つからず毎回違うところを試す人たち)が多いのに海外で日本人以外の美容師で「この人だ!」と思う人に出会える可能性は本当に低い。それは言語の問題というよりも日本人の髪質に慣れているかどうかと日本人のヘアスタイルの流行を熟知しているかどうかなので仕方がないのだけれど・・・
私もフランスで2回、フランス人美容師を試したあげくあきらめてわざわざパリまで行って日本人に切ってもらいただのカットに€60も払っていた。どう考えてもoverpricedだと思うけれど需要と供給のバランスなのであきらめるしかない。

C↓
コストを下げるための海外進出は製造業ではもちろん当然のごとく行われている。
オーストラリアでははくばくという麺類、穀物関係の会社がオーストラリア産の良質の小麦粉を活かして乾麺製造を行っている。オーストラリアにいながら日本のおいしいうどんが安く手に入る環境はうらやましいばかり。

σ↓
リスクを下げるための海外展開はコストを下げるためとは少し違う。輸出企業にとって最も大きいのが為替リスク。伝統的に日本の輸出産業である自動車産業は軒並み米国など現地生産体制を取っている。


posted at 7:38 PM : |


November 05, 2004

Conjoint Analysis

昨日に続いて市場調査に使うデータ分析法のお話。

人がある商品を購入する場合、単に価格や性能といった単独の特性によって評価するケースは稀。通常は「価格」+「性能」+「スタイル」に「メーカー」のイメージなどを総合して、最終的にその製品の評価として購入するか判断する。

例えば、会社帰りに学生時代の友人と外で食べる約束をしレストラン選びを任されたとする。その時普通は東京で膨大にある選択肢の中から「価格だけ」「メニューだけ」で決めることはまずない。
「久しぶりに会うんだから多少値段がはってもゆっくりできるところがいいな」(サービス>価格)
「2人ともエスニック好きだから駅から歩いてもこれだけは外せない」(料理の種類>店のロケーション)
「別にオシャレな雰囲気じゃなくていいから、コースじゃなくて自分でいろいろ選びたい!」(インテリア>メニュー)
・・・と、製品(この場合外食サービス)を取り巻く様々な特性を総合評価する。

総合評価の中に様々な特性があれば、人によって、またシチュエーションによって、各特性を重視する程度が異なってくるのは当然のこと。"Coinjoint Analysis"(訳でも「コンジョイント分析」)とは製品の購入意向、評価に影響を与えるであろう特性それぞれに、どのくらいの重み付けがあるかを数値化する手法のひとつ。言い換えれば、提示した全ての特性(レベル)に同じベースにて数値を与え、全てのレベルに1位から最下位までのランキングを行なうもの。

昔むかし流行った『究極の選択』(「貧乏な美男子」と「ボンボンのブ男」どっちがいい?みたいなやつ)の逆でたくさんの選択肢を与えて、順位付けを行い商品開発やマーケティングに活かそうというものです。日経リサーチで"Conjoint Analysisのデモを見つけたので興味ある方はどうぞ。

またINSEADでもプロジェクトや宿題の一環として"Conjoint Analysis"に関わらず、たくさんのWebアンケートをやった(私も"Advanced Brand Management"の授業でVAIOのイメージ評価を実施)。私たちはSurveyMonkeyというツールを使ったけれど日本語でも100人に聞きましたとかで簡単にアンケートが作れる時代になってます。


posted at 9:16 PM : |


November 04, 2004

Regression Analysis

INSEADではCore Course(必修科目)で統計があった。私が一番成績がよかったのがこの統計(というより他が悪すぎた)。範囲はセンター試験レベルから始まって、"Regression Analysis"(回帰分析)ができるようになるまで。学生の間では「こんなこと実ビジネスに何の役に立つんだ」とすこぶる評判が悪かったこの統計の授業、私は世に溢れている数字(TVの視聴率や特定企業の市場シェアetc.)の裏が少しでも垣間見れるようで結構好きだった(エクセル好きだからかもしれない)。

"Regression Analysis"(回帰分析)とは"1つ(単回帰分析)または複数(重回帰分析)の説明変数と、1つの目的変数の関係を求め、説明変数から目的変数を推定"すること。
例を挙げると、何名かの体重と身長の値が分かっているとき、体重の値は分かっているが身長が不明の人がいるとする。このようなとき、すでに得ているデータから身長と体重の関係を調べ、その相関を求め身長不明の人の身長を予測すること。もっと詳しいこと、エクセルの分析ツールの使い方などは『回帰分析の基礎理論』という素晴らしいWebsiteがあるのでそちらをご覧ください。

授業では理論と共に自分でエクセルを使った実習(宿題)が多数出された。
例:ある店の顧客に対する販売実績と顧客の属性の関係を分析せよ。
目的変数(Y):ある年の各顧客の購入額
説明変数(X):顧客の属性(年齢、性別、家族人数、年収など)
すなわち、
(購入額)=a x(年齢)+ b x(性別)+ c x(家族人数)+ d x(年収)+(誤差)
の式の中でa,b,c,dの値と、誤差値を求める(実際にはエクセル上でデータを入力すると自動的に式を導いてくれる)。
その結果、
(購入額)=30 x(年齢)+300 x(性別)+450 x(家族人数)+0.001 x(年収)+5000
などという関係式が得られる。
この式に、新しい顧客の属性データを入れれば、購入額が推定できるというのが、回帰分析の考え方。

授業中は実際に過去数年間のINSEAD学生を母体とし、目的変数(Y)をINSEAD卒業時の成績、説明変数(X)を年齢、性別、出身地域、入学前の年収、GMATの点数など様々な属性を設定して相関関係を導き出してみたので盛り上がった。ひとつ覚えているのが「INSEADの成績と卒業後の年収に全く相関関係がない」ということ。それを見て安心した人も多かった。ま、本当に関係ないと思います、全く。


posted at 8:19 PM : |


November 03, 2004

Diseconomies of Time Compression

Economies of Resource Accumulationがない場合でもlatecomer(後発)はfirst-moverに比べて"Diseconomies of Time Compression"が避けられない、というもの。これは、ある一定速度で投資を行った場合と2倍の速度で半分の時間行った場合を比べると、ある一定速度で行った場合の方が多くのresourceが積み上がっていることを言う。例えば、R&Dである商品の開発を開発人員を2倍にし半分の期間でやろうとしても同じ数、レベルの商品が完成しないということ。

この要因にはresource積み上げへの「時間への依存」と「顧客回転率」がある。

時間への依存・・・商品の開発ではある一定のプロセスを踏まなければならない。例えば医薬品業界で新薬の開発に【基礎研究(2-3年)】-->【非臨床試験(3-5年)】-->【臨床試験(3-7年)】-->【承認申請と審査(1-2年)】というプロセスを経ねばならず、1つの新薬が世に送り出されるまでに10年、20年を要する。前のステップを飛ばして次のステップへ行くことはできず、また研究の成果は注ぎ込んだ開発費や人員の量(flow)ではなく、土台となるそれまでの開発成果内容(stock)に比例する。

顧客回転率・・・市場によってある顧客が顧客であり続ける期間は異なる。例えばP&Gユニチャーム花王などの間で激戦が続く紙おむつ市場。ある特定の顧客が市場にいる期間は2-3年と短く常に市場には顧客が出入りする。このような市場では、新規顧客獲得にリソースをかけることは正しい。似たように顧客回転率が高い市場には不動産、観光地のレストラン、テーマパーク、などがある。
一方で生命保険、大企業の社内ITシステム、など契約が長期間に及ぶ商品や新聞、タバコなど人々の信条、嗜好と密接に関わる商品は顧客回転率が低い。このような市場では商品開発・新規顧客獲得への投資を増やしてもそれに見合うシェアの拡大につながらない。

"Diseconomies of Time Compression"とは、latecomerがfirst-moverに追いつこうとした時に同じレベルのリソースを積み上げるのに余分にコストがかかるかもしれない、ということです。


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November 01, 2004

Economies of Resource Accumulation - 2 -

今日はEconomies of Resource Accumulationを生み出す環境要因について。

購入前の試用・・・購入前に試すことが難しい商品/サービスの購入は信頼ある人の口コミなどに頼りやすい。これはサービス業に顕著で典型的なのがお医者さん。治療を受けてみなければ良し悪しがわからないので、知り合いの伝手などを頼ることが多くなる。特定の分野で第一人者と呼ばれる有名医者が出てくるのもこのせいでしょう。

製品の耐性・・・製品の寿命が長く運用における不具合が致命的な事故につながる商品/サービスではEconomies of Resource Accumulation。最たる例が民間航空機業界。現在民間用の航空機はBoeingAirbusの2大巨頭の寡占状態にある。新規に参入する企業がいないのは、航空機製造に巨額の初期設備投資が必要であることもさることながら、航空会社が航空機の不良による事故を起こした場合補償金額など影響が致命的であるため、実績のない新参者から買う、もしくはリースする人は誰もいないため。

トライアルコスト・・・試すことが難しい商品ほど巷での評判やブランドイメージが重要となる。同じ食品でも高級レストランは、気軽に試すことが難しいためミシュランのレストランガイドでの格付けや有名人の推薦などが重要となる。一方、普段スーパーで買うような食料品はトライアルのコストが安いため消費者がメーカーを乗り換えることは頻繁に行われ、小売のプライベート・ブランド(イオントップバリュ西友ファインセレクトなど)の躍進の要因となった。

Network Externality・・・Network Externality(8月18日Blog参照)は「成功がさらなる成功を呼ぶ」典型的な例。

輸送コスト・・・顧客ベースが大きいことによるコスト面での競争力は顧客ベースへの輸送コストが大きいときに物をいう。飲料の半分を自動販売機が売り上げる自販機王国日本では、設置ベースが会社全体の売上に直結する。推定ではコカコーラが設置台数の40%を占め、2位のサントリーが15%とコカコーラが圧倒的。

衝動買い・・・世界中どこにでもあるマクドナルド。面白いのは彼らは広いカバレッジを目指しているのではなく、ある特定の地域内に3つも4つも建て、ふらふら街を歩いているうちに小腹がすいた時「そこにある」ことを目指しているのだという。確かに朝から「今日はマクドナルドで食べる」と決めて出かける人はいないわけで「すぐ手に入り」「予想していた味」だから人は満足するんでしょう。


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